インバネスって知ってます?昔、学生の頃、伊丹十三にちょっとかぶれていて、彼のエッセイでその存在を知ったのが初めてでした。もちろん、小さい頃はインバネスを着たおじいさんを見かけたことや、映画の中で見たことはありましたが、インバネスという名前は知りませんでした。シャーロック・ホームズが着ているコートなのですが、日本のものはちょっと雰囲気が違うのです。
着物の上に羽織るコートのようなモノで、大抵は帽子やステッキと一体になったファッションで、バットマンのマントのような怪しげな雰囲気を持っています。伊丹氏のエッセイにはイラスト入りで説明されています。で、この間ひさしぶりに見たのです。家の近くを走る嵐電(らんでん)という電車の中で。年のころは65〜70歳くらいのそんなにお年寄りでもない人が、ピンと背筋を伸ばしてインバネスを着こなしていました。カッコイイ!そういう人に私はなりたい。でもなぁ〜、正月くらいしか着物着ないし、姿勢悪いし‥‥。
ユニクロのようなファッションが流行るのは、それはそれでいいけれど、なにか薄っぺらな社会に相応の薄っぺらなファッションが多くて面白くありません。昔の人は貧しかったかもしれないけれど、ここ一番という時にはウールの仕立てのいいジャケットを着たりして、いいものを身の回りに置いていたような気がします。帽子をかぶっている人も多かったし、パイプなどに凝っている人も多かった。大人のファッションという面では、昔の人の方がはるかに本物度も、成熟度も、色気も勝っていたようです。時代に流されない大人のファッションを取り戻す。そうした責任感が私たちの世代には必要なのでしょう。